レゾナック様の“共創文化醸成”を支援

- 株式会社デルタスタジオ代表 渡辺 健介
- 株式会社デルタスタジオ 市瀬 佑理(インタビュアー)
会議からドミノを倒すように風土を変える
―プロジェクトのきっかけを教えてください。
本プロジェクトは昭和電工と日立化成の統合によって誕生した新会社レゾナック様と取り組みました。同社とは、人材育成をはじめ、経営幹部合宿の企画・ファシリテーション、人事制度設計のアドバイザリーなど、様々な形でご一緒してきました。そして、パーパスとバリューズを新たに策定したタイミングで、経営陣から「世界で戦える日本発のメーカーとなるため、共創型の組織風士を作りたい」という想いを伺い、風土改革を成功させるために何かできないか、とお声がけいただいたことがきっかけです。
風土改革のために、パーパスやバリューズを策定することも重要ですが、それだけで組織が変わるわけではありません。大事なのは、ふわっとした抽象的な概念だけではなく、社員に「具体的な新しい働き方」を示し、それを日々の業務で実践できるようにすることです。
とはいえ、働き方全体を一気に変えるのは難しい。そこで、私たちは「会議」に注目しました。
―会議に注目したのはどうしてですか?
会議はその会社の風土を象徴するものです。自由闊達に意見を言い合える雰囲気かどうか、思考の深さやスピード感など、会議を見ればその会社がわかるといっても過言ではありません。さらに、仕事の中で会議の時間は大きな比重を占めており、この会議を変えることが組織風土を変える突破口になると考えたのです。

まず会議の場から共創文化を体現し、それを起点に、ドミノを倒すように会社全体に変化を波及させていく。さらには、研修を受けて終わりではなく、変化の前後をきちんと測定する“変わる”メソッドを用いたプログラムを提案しました。
改革には抵抗勢力もいて一筋縄ではいきません。このプロジェクトが改革を勢いづけるQuickWinになれば、という思いもありました。
そして、経営陣から「いいですね!ぜひやってみよう!」と快諾いただき、全社の組織風土改革プロジェクトが始まりました。
まずはCXOから。本気で“変わる”姿勢を示す
―プロジェクトはどのように進めたのですか?
まずCEO以下、経営陣全員にプログラムを受講していただくことから始めました。
全社展開を成功させるためには、経営陣の本気のコミットメントが不可欠だと考えたからです。「まず上が変わらないと説得力がない」とお伝えし、経営陣にも360度サーベイを実施し、プログラム前後の変化を測定しました。
プログラム終了後、CEOが自身の360度サーベイの変化を決算説明会で発表し、率先して変わる姿勢を社内外に示されました。
その結果、社員から「CEOが風士改革に本気で取り組んでいることが伝わってくる」といった声が多く聞こえてきましたが、経営陣から始めたことはプロジェクトの推進をぐっと後押しすることにつながりました。
マインドとスキルが噛み合うことで“共創”が実現
―具体的なプログラム内容を教えてください。
3ヶ月の短期集中型で、共創型の会議に必要なマインド・スキルを磨いていきます。マインド面では、無意識バイアスと心理的安全性を学び、建設的な議論を行うための土台作りを行います。スキル面では、一人ひとりが質の高い発信・傾聴を行うためにピラミッドストラクチャーを学んだ上で、効果的に会議を進行するためのファシリテーションスキルを磨きます。
そして、プログラムの最後には3ヶ月でマインド・スキルそれぞれに変化があったかどうか事後アンケートの結果を振り返ります。
残念ながら、多くの企業は打ち上げ花火をあげるように、こういった研修をバラバラに実施しています。
しかし、単発で学ぶことは効果的ではありません。各要素が歯車のように噛み合って初めて“共創型”の会議が実現できるのです。
そして、具体的な会議という場を通じて「なるほど、“共創”とはこういうことか。ぜひ現場で実践したい!」というイメージを持つことが風土改革の第一歩となります。
「月ではなく、地球で。個人ではなく、チームで。」
―研修の設計において、特に意識された点はありますか?
全社3万人近い大規模組織なので、カスケード型(上から下への段階的な)の展開を行いました。
まず上司がライブ研修を受講し、部下は反転学習形式で動画を視聴します。その上で、上司と部下が自分たちのチームの課題と対策を議論する場を設けていただきました。
重要なのは、実際に日々共に働くチームが、一緒に受講することで共通言語を作ることです。
私たちはこれを「月ではなく、地球で。個人ではなく、チームで。」と表現しています。

ここでいう「月」とは、普段の業務から離れた研修所のことです。「地球」は普段仕事をする現場を意味します。多くの研修では、現場から数名だけを引っこ抜き、「月」に送って研修を受講させます。しかし、学びが現場に紐づいていなかったり、現場に共通言語を持った人が十分にいないと、「地球」に戻ってきても受講者が孤立して、実践につながらないという問題が起こりがちです。
効果的に組織を変えていくためには、個人ではなく、チームで受講することで共通言語を作った上で、「地球」つまり現場で実践し、浸透させていくことが鍵なのです。
―カスケード型の展開について、受講者の反応はいかがでしたか?
統合直後の忙しい中で、通常の研修に加えて職場での議論の場を設けることは、もちろん負担になります。しかし、実際にやってみると、「日々働くメンバーと共通言語が持てて、チームの雰囲気がガラッと変わった」といった前向きな声が多く聞こえてきました。普段、業務以外の話をしないメンバーで、これからのチームのあり方や、より良い仕事の仕方を話し合うきっかけになったようです。
海外展開でグローバルに共通言語を広げる
―海外にも数多くの拠点がありますが、同様に展開を行ったのですか?
はい、本社からスタートしたこのプロジェクトは、国内のグループ会社、そして海外拠点にも展開を行いました。グローバル展開のために、英語版を開発し、アメリカ・ドイツ・スペイン・シンガポール・インドネシア・中国など、各国のチームに研修を実施しました。時差があるため、時には日本時間の深夜1時開始、早朝6時に終了することもありました。海外でも日本に劣らず、またはそれ以上に前向きな反応でした。文化の違いを超え、全社で共通言語を持ち、新しい組織文化を定着させる後押しになったと思っています。
―世界中で同時多発的に、共創に関する議論が行われているというのは、まさにドミノのように浸透が進んでいることが感じられますね。
確かな変化の手応え。“変革のアイコン”に
―プログラムの結果はいかがでしたか?
360度サーベイでは平均76%が「変わった」と評価され、さらに自己評価では平均99%が変化を実感しているという結果が出ました。
「これが‘‘共創型の働き方か!’’と腹落ちしました」「日々職場で実践することで、チームが変わっていく手応えを感じました」といったコメントがありました。仕事の生産性を高める実践的な働き方を示したからこそ、社員に受け入れられたのです。
経営陣からは「大成功です!“変革のアイコン”として使わせていただいています」という嬉しい声もいただきました。
対外的にも、この取り組みが心理的安全性AWARD2024を受賞するなど、「組織風土改革の成功事例」としてメディアでよく取り上げられています。
本プロジェクトは組織風土という文脈で実施しましたが、会議が非効率、自由闊達な議論がなされていない、といった悩みを抱えている会社は少なくありません。これは日本の財界の重要な課題の一つです。
そして「変わる会議」は、その課題に対する非常に有効なアプローチだと私たちは信じています。
